日本では「イノベーション=豊かさ」の象徴とされがちです。特に「新しい技術を生み出せば、経済も成長し、みんなが幸せになる」と信じる風潮が根強くあります。しかし、2024年のノーベル経済学賞を受賞したアセモグル氏とジョンソン氏の研究が示すように、イノベーションは必ずしも「善」ではありません。
彼らの主張は明快です。イノベーションには次の2種類があるということです:
- 包摂的イノベーション(inclusive innovation):多くの人々に利益をもたらす
- 収奪的イノベーション(extractive innovation):一部の人だけが利益を得て、多くの人には負担や損失を与える
実際の日本の現状は?
例えば日本では、この25年間で生産性は30%上がったにもかかわらず、実質賃金は3%減少しました。普通なら「生産性が上がれば給料も上がる」と考えるところですが、そうなっていないのが現実です。
これが示すのは、「イノベーションがあっても、労働者が得をするとは限らない」という事実です。
生産性バンドワゴンとは?
イノベーションが社会全体に利益をもたらすには、「生産性バンドワゴン」が働く必要があります。これは、技術革新によって限界生産性(新しい労働者1人が生み出す利益)も上がることを意味します。
比較:
- 機械が人を置き換えるだけ ⇒ 労働は不要に → 実質賃金は下がる
- 機械が人を助ける ⇒ 新しい価値を創出 → 実質賃金は上がる
後者こそが、真に社会に役立つ「包摂的イノベーション」なのです。
日本の「間違ったイノベーション」
2000年代、日本では「非正規雇用」を活用するビジネスモデルがもてはやされました。これは短期的に企業の利益を上げましたが、多くの人にとっては不安定な雇用を生む収奪型イノベーションでした。
このような方向性が続けば、どんなに技術が進んでも、人々は豊かになれません。
特許の提案:人を補完するAI技術による「包摂型イノベーション」
特許アイデア:
「労働者の限界生産性を高めるAIサポートシステム」
概要:
本発明は、現場労働者や事務職などのスキルに応じて最適化されたAIアシストを提供し、限界生産性の向上を支援するシステムです。個人のスキルや業務内容に応じて、リアルタイムでサポート内容をカスタマイズします。
特許のポイント:
- スキルレベルに応じてAIの提示内容を調整(例:初心者には簡単なガイド)
- 業務記録を基にした「次の最適アクション」の提案
- 組織全体のデータから、隠れたスキルやボトルネックを発見
社会的意義:
この技術は単なる自動化ではなく、人間の能力を高め、働く意欲を引き出す方向性のイノベーションです。多くの人々の実質賃金を引き上げる、生産性バンドワゴンを引き起こす起点となりえます。
おわりに
イノベーションは決して「魔法の杖」ではありません。方向を誤れば、むしろ社会を疲弊させます。
日本が目指すべきは、すべての人が取り残されない「包摂的イノベーション」。その実現には、技術だけでなく、制度や価値観の転換も求められています。
そして、それを支えるための知的財産(特許)も、**誰のための技術か?**という視点が必要です。
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