「わたしには……」
その一言を伝えるのに、数秒の沈黙が続くことがあります。
これは、吃音(きつおん)という言語の障害を持つ方の話です。しかし、私は失語症という、やはり「話す」「聞く」「書く」「読む」ことが難しくなる障害を持っています。だからこそ、この記事に強く共感しました。
ある大学院生、時元康貴さんは、就職活動で8社連続で落ちました。原因は「吃音」です。話し始めに言葉が出にくく、「……わたしは」と話すまでに5秒以上かかってしまう日もあります。面接官の戸惑う顔。沈黙の空気。苦しかったと思います。
でも彼は、ある時から「私は吃音という障害があります」と正直に伝えるようにしました。すると、不思議なことが起こります。それまで落ちていた面接に、通るようになったのです。
なぜ障害を「伝える」のか?
障害があることを打ち明けるのは、とても勇気がいります。私も失語症を持っているので、「理解してもらえないかも」「バカにされるかも」と感じたことが何度もあります。
でも、時元さんのように、障害を正直に伝えることは、「助けてほしい」と言うだけではありません。「こうすれば、私はもっと働けます」と提案することなのです。
たとえば、彼はこんな風に伝えました。
- 「電話だと発音に2~3秒かかります」
- 「メールで連絡をもらえると助かります」
これは、ネガティブな訴えではありません。とても前向きな「仕事のやり方の提案」です。
伝えることは「歩み寄り」の第一歩
障害を持つ私たちは、社会の中では「少数派」かもしれません。でも、少数派がいるからこそ、社会は多様になれます。
時元さんは「障害を伝えることは、多数派との歩み寄り」と言いました。とても印象的な言葉です。
社会は「健康で、話すのがスムーズな人」ばかりを前提につくられています。でも、その中で私たちが暮らしていくには、少しずつ「仕組み」を変えていく必要があります。そのために「伝える」ことが大事なのです。
そして、伝えるには練習や準備が必要です。一人で抱え込まず、自助グループや友人、先生、支援センターなどに相談して、ゆっくり準備すればいいのです。
「話せないこと」は「伝えられないこと」ではない
私自身、失語症になってから、口で話すことはとても難しくなりました。でも、文字でなら、こうして伝えることができます。
話すのが苦手でも、紙に書いたり、アプリを使ったり、画像やスタンプで伝えたり。方法はいろいろあります。
だから、就活や面接のときも、「どうすれば伝えやすくなるか」を考えておくことが大切です。
「障害があります」と伝えることは、社会に「私にもできることがある」と知らせること。これは、勇気ではなく「交渉」なのです。
特許への応用もあり得る?
もし、就職面接や職場で「伝えるのが苦手」な人向けに、感情や意図を分かりやすく表示できるツールがあれば、どうでしょう? たとえば、
- 会話のテンプレートを表示してくれるメガネ型デバイス
- 相手に「今は話せません」「メールでお願いします」などを表示できるバッジ
- 吃音や失語症でも使いやすい履歴書・エントリーシートのフォーマット
こういった発明は、将来、特許として登録し、同じように困っている人の支援にもつながるかもしれません。
まとめ
障害を持つことは、弱さではありません。むしろ、「どうしたら自分も社会で活躍できるか」を考える力につながります。
そして、正直に「伝えること」は、社会との「歩み寄り」のスタートです。
私たち少数派が安心して声を出せるように――社会の側にも、聞く耳と変わる勇気が求められています。
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