受付時間:平日 9:00~17:00。※時間外でも対応いたします✉ 無料相談・お問い合わせ

「57歳・70歳・78歳」に脳がガクッと老化する理由──AIで見えた“脳とタンパク質”の不思議な関係

「年を取ると物忘れが増える」「最近、言葉が出にくい気がする」「何となく頭が重い」。こんな感覚を抱いたことはないでしょうか?
これらは単なる気のせいではなく、実際に「脳の老化」が進んでいるサインかもしれません。そして、その老化は、ある年齢のタイミングで“ガクッ”と進むことが、最新の科学研究で明らかになりました。

2024年、中国・復旦大学の研究チームが発表した論文「Plasma proteomics identify biomarkers and undulating changes of brain aging(脳の老化に伴うバイオマーカーと波状変化を明らかにする血漿プロテオミクス研究)」は、1万人以上の脳画像と血液中のタンパク質データを用いて、これまで見えなかった脳の老化のパターンを“可視化”することに成功しました。

目次

■ 脳の老化は「波」のようにやってくる

私たちはよく、「年を重ねるごとに少しずつ老けていく」と考えがちです。ところがこの研究は、「脳の老化は一定のスピードで進むのではなく、特定の年齢で急激に進行する」という驚くべき事実を突き止めました。

脳の老化が加速する“節目”は、以下の3つの年齢:

  • 57歳
  • 70歳
  • 78歳

この3つの年齢で、脳内や血液中のタンパク質に大きな変化が起きており、脳の構造や機能が“急変”しているのです。研究者はこの現象を「undulating changes(波のような変化)」と表現しました。

■ AIが解析した「脳年齢」とは?

今回の研究では、英国バイオバンクに登録されている健康な成人1万949人のMRI脳画像を用いて、AIが脳の“見た目年齢(=脳年齢)”を予測。
「実年齢と脳年齢の差」が大きい人ほど、認知症や脳卒中などのリスクが高いとされています。

このAIモデルによって、脳年齢が実年齢より大幅に進んでいる人がどのような特徴を持つのかが詳しく分析されました。

■ 血液から脳の老化がわかる? タンパク質の秘密

さらに、研究チームは4696人の血液から得た「血漿プロテオミクスデータ(血液中のタンパク質情報)」を詳しく調べました。その結果、13種類のタンパク質が脳の老化と深く関係していることが明らかになったのです。

特に注目すべきは、次の2つのタンパク質です:

● ブレビカン(Brevican)

ブレビカンは脳の細胞外マトリックスに多く含まれており、神経の構造維持に重要な役割を果たしています。
このブレビカンが血液中に少ない人は、認知症や脳卒中のリスクが高まることが分かりました。

つまり、「ブレビカンが減る=脳の構造がもろくなっている」可能性があり、早期の老化サインとも言えるでしょう。

● GDF15(成長分化因子15)

一方、GDF15が血液中に多い人も、同様に認知症や脳卒中のリスクが高くなることが確認されました。

GDF15はストレスや炎症などの“体の異常”に反応して増えることが知られています。したがって、GDF15が高い状態が続いている人は、体や脳の中で「見えない異常」が起きている可能性があります。

■ 年齢ごとに異なる老化プロセス

さらに興味深いのは、年齢によって変化するタンパク質の種類が異なっていることです。

年齢主な変化の内容57歳代謝関連タンパク質の変化が顕著。体内のエネルギー管理が変化し、疲れやすくなる人が増える時期。70歳神経発達経路に関連するタンパク質が変動。記憶力や判断力の衰え、軽度認知障害(MCI)の兆候が現れやすくなる。78歳JAK-STATシグナル伝達経路の変化が目立つ。免疫や炎症反応との関係が深く、脳の炎症性疾患リスクが増加。

つまり、脳の老化は「単なる加齢による一律な変化」ではなく、年齢ごとに異なる生物学的プロセスが関与しているのです。

■ 私たちは何ができるのか?

では、これらの知見を踏まえて、私たちは何を意識すればよいのでしょうか?

まず、「ブレビカンの低下」や「GDF15の増加」が脳の老化と関連することが分かってきた今、血液検査でこれらの数値を把握できれば、将来のリスクを早期に知る手がかりになります
さらに、生活習慣の改善や脳の活性化を意識することも重要です。

  • 適度な運動(有酸素運動+筋トレ)
  • バランスの取れた食事(抗酸化物質・オメガ3脂肪酸など)
  • 社会とのつながり(会話・交流・趣味)
  • 十分な睡眠(脳の老廃物を除去する大切な時間)

これらはブレビカンやGDF15のバランスにも影響を与える可能性があり、脳の老化を“緩やかに”するカギになるかもしれません。

■ 発明について

血液中のタンパク質で脳の老化段階を予測するシステム

脳の老化は従来、MRIなどの画像診断でしか把握できず、コストや身体的負担が大きいという課題がありました。
近年、血液中のタンパク質「ブレビカン」や「GDF15」と脳の老化との関係が注目されていますが、それらを活用した簡便な予測システムは実用化されていません。

本発明では、血液中の特定タンパク質量に基づいて脳の老化ステージをAIで推定し、認知症や脳卒中などのリスクを早期に把握できるシステムを実現します。

● 主な特徴

  • ブレビカン・GDF15などの血液データをAIで分析
  • 「57歳・70歳・78歳相当」の脳老化ステージを出力
  • 必要に応じて、13種類以上のタンパク質を追加分析して予測精度を向上
  • 出力結果に応じて、生活習慣改善アドバイス(運動・栄養・睡眠など)を提供

● 効果

  • MRIを使用せずに、脳の状態を“見える化”
  • 高リスク群を早期に発見し、予防対策を実施可能
  • 一人ひとりに合わせたパーソナライズ支援が可能

● 活用例

  • 病院や脳ドックでのスクリーニング検査
  • 健康管理アプリや高齢者向けの生活支援サービスとの連携
  • 製薬企業での治験対象者の選定や臨床研究への応用

● 技術分野

  • 医療AI・バイオマーカー診断
  • 認知症・脳卒中の予防医療
  • パーソナルヘルスケア支援システム

■ 脳の未来を考える

AI技術とタンパク質研究の融合によって、脳の老化は「予測可能」になりつつあります。将来的には、血液検査だけで脳の状態を推定し、個別に対策を講じる「脳ドック」が一般化する日も来るかもしれません。

「老化は避けられない運命」ではなく、「上手に付き合う対象」へと変わる。そんな時代が、すぐそこまで来ています。


参考文献
Liu, WS., You, J., Chen, SD. et al. Plasma proteomics identify biomarkers and undulating changes of brain aging. Nat Aging 5, 99–112 (2025).
https://doi.org/10.1038/s43587-024-00753-6

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次