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脳の“4つの年齢”があるとしたら─9歳・32歳・66歳・83歳が意味するものと、「新しいアイデアのピーク年齢」

最近、「脳には4つの転換点があり、9歳・32歳・66歳・83歳で“別のフェーズ”に切り替わる」というイギリスの研究が話題になりました。イギリス・ケンブリッジ大学などのチームが、0〜90歳の約4200人分の脳画像データを解析し、Nature Communications に発表したものです。Nature+1

ITmediaの記事でも、「脳は“4つの年齢”で劇的な転換点がある」と紹介されています。

この記事では、

  • 脳の「5つの時代」と「4つの年齢の転換点」が何を意味するのか
  • それと「新しいアイデア・特許のピーク年齢」がどう関係しうるのか

を、できるだけやさしく整理してみます。


目次

1. 脳には「5つの時代」と「4つの転換点」がある

研究チームは、拡散MRIという方法で脳の“配線(白質ネットワーク)”を調べました。Nature
その結果、脳のネットワーク構造がガラッと性質を変える「転換点」が、おおよそ次の4つの年齢に集中することが分かりました。Nature+2EurekAlert!+2

4つの転換点:9歳・32歳・66歳・83歳

この4つのポイントで区切ると、脳の“配線パターン”は、次の5つの「時代(エポック)」に分かれます。Nature+1

  1. 0〜9歳:乳児期〜小児期
  2. 9〜32歳:思春期〜若年成人期(長い「思春期」)
  3. 32〜66歳:成熟した成人期
  4. 66〜83歳:初期の高齢期
  5. 83〜90歳:後期高齢期

それぞれを、日常感覚に近い言葉で整理すると:

0〜9歳:「配線を一気につくる時代」

  • 脳全体の“線の本数”は多いが、まだ効率は悪く、ざっくりつながっている状態。Nature+1
  • 使いながら「どの線を太くするか」「どの線は弱くするか」が決まっていくフェーズ。

9〜32歳:「効率がどんどん上がるロング思春期」

  • ネットワークの“効率(グローバル効率)”がどんどん高まり、情報処理のスピードは29歳前後でピークを迎えることが示されています。Nature+1
  • 世界中の研究でも、30歳前後で脳の機能的結合(functional connectivity)がピークになるという報告が多く、今回の結果とも整合的です。Nature+1
  • 9〜32歳を通して、
    • 「遠く離れた領域同士をうまく結ぶ」
    • 「同じ機能を持つ領域同士を細かく分業させる」
      という、“高速で賢いネットワーク”への再編が続きます。Nature+1

32〜66歳:「効率は少し下がりつつ、“専門性”が濃くなる時代」

  • 32歳を境に、全体の効率は少しずつ下がる一方で、局所的なまとまり(モジュール化・クラスタリング)は強くなることが分かりました。Nature+1
  • 簡単に言えば、
    • 「全体としてのスピード」よりも
    • 「各専門チームの連携」
      が中心になるフェーズです。
  • 職業的なスキルや、生きてきた経験が反映された「その人らしい脳のネットワーク」が育つ時期、ともいえます。

66〜83歳:「ネットワークを“区切り直す”高齢期」

  • 66歳あたりで、「どの領域同士をひとかたまりと見るか」というモジュール構造の変化が目立つようになります。Nature+1
  • 認知症リスクや血管性の変化が問題になりはじめるのもこの時期ですが、一方で「限られた資源を、重要なルートに集中させる」ような再編も起こります。Nature+1

83〜90歳:「一部の“要”に重心が移る後期高齢期」

  • 全体的な変化は小さくなりますが、一部の領域の重要度(セントラリティ)が高まるという特徴が見られます。Nature+1
  • すべてが一律に衰えるのではなく、
    • ある領域はかなり粘り強く働き
    • 別の領域は早く弱る
      といった「ばらつき」が大きくなる時期と考えられます。

2. 「32歳まで思春期」というショック

この研究で、多くの人が驚いたポイントは、

「脳ネットワークの“思春期”が、32歳ごろまで続いている」

という点だと思います。

9〜32歳では、

  • ネットワークの効率が上がり続ける
  • 小さなグループごとの分業(局所的な分化)も進む

という、「一気に大人の脳になるまでの長い助走」が続きます。Nature+1

32歳を過ぎると、

  • 全体効率は少しずつ落ち
  • 代わりに「専門分野のまとまり」が強くなっていく

という、“仕上げ”のフェーズに入ります。

ここから言える大きなメッセージは、

  • 「20代前半で将来が決まる」というのは、
    脳科学的にはかなり怪しい考えである
  • 30代前後まで、脳は“再配線の真っ最中”であり、
    学び直しやキャリアチェンジにも十分間に合う

ということです。


3. 新しいアイデアや特許は何歳がピークなのか?

では、本題のひとつである 「新しいアイデア(特許など)は何歳がピークなのか」 について、研究結果をいくつか整理してみます。

3-1. クリエイティビティ一般のピーク

心理学の研究では、

  • 創造性のピークは、だいたい30代半ば〜40代前半
    とするものが多いことが報告されています。Psychology Today+1

また、ノーベル賞受賞者のデータを分析した研究では、

  • 「概念的なひらめきタイプ(アイデア重視)」は、20代〜30代前半
  • 「経験を積み上げるタイプ(実験・試行錯誤重視)」は、50代半ば

にピークが来る、という“二峰性”が報告されています。World Economic Forum

3-2. 特許データで見る「発明の年齢」

数百万人規模の発明者の特許データを分析した研究によると:Futurity+3NBER+3ResearchGate+3

  • 1人あたりの特許件数のピークは「30代後半〜40代前半」
  • ただし、
    • 多くの発明者は 50代・60代になっても特許を出し続けている
    • 初めて特許を出す人の 約2割以上が50歳以上 というデータもある

という結果が得られています。

つまり、

「発明の世界は若者だけのもの」
というイメージは、データ的には間違い

であり、

ピークは中年期にあるが、初めての特許が50代以降でもまったく不思議ではない

というのが、現実に近い姿です。


4. 脳の「4つの年齢」と発明のピークをどう結びつけるか

ここまでの情報を、少し統合してみます。

4-1. 9〜32歳:アイデアの“土台づくり”と概念的ひらめき

  • この時期は、脳ネットワークの効率が高まり、処理速度も29歳前後でピークを迎えます。Nature+1
  • 抽象的なモデルを扱ったり、大胆な仮説を立てたりするのに有利なフェーズで、
    「概念型(コンセプチュアル)イノベーション」 が生まれやすい土壌と考えられます。World Economic Forum+1

4-2. 32〜66歳:専門分野に根ざした「経験型イノベーション」

  • 32歳以降は、ネットワークの効率はやや下がるものの、
    局所の結束力・専門モジュールが強くなる時代 です。Nature+1
  • 仕事の経験・失敗・人脈・暗黙知など、「年齢とともに積み上がる要素」が脳ネットワークによく反映されるフェーズでもあります。
  • 特許データで見た 「発明のピーク(30代後半〜40代前半)」 は、
    • 十分な専門知識と
    • まだ高い処理スピードと柔軟性
      が両立している時期に重なっていると考えられます。NBER+2ResearchGate+2

4-3. 66歳以降:量より「質」と「橋渡し」のイノベーション

  • 66歳を越えると、全体としての効率は下がる一方、
    • どのモジュールをどう組み合わせるか
    • どこに重点を置くか
      といった「ネットワークの再配分」が目立つ時期になります。Nature+2世界神経学連合+2
  • 特許の件数ベースでは落ちますが、
    • ニッチな領域
    • 異分野をつなぐアイデア
    • 若い世代のアイデアを補強する視点
      など、「橋渡し型」のイノベーションでは、むしろ 高齢の経験が武器 になります。Futurity+1

結論:

「新しいアイデアのピーク」は、おおざっぱには30代〜40代前半だが、
タイプの違うピークが何度も来る

と言うのが、現在の研究から見える姿です。


5. 今日からの「使い方」──年齢ごとの戦略

最後に、この知見をどう生活や仕事に活かせるか、簡単にまとめます。

9〜32歳の人へ

  • とにかく いろいろ試す・学ぶ・失敗する 時期。
  • 身につけるスキルの幅が、その後の「専門モジュール」の素材になります。
  • アイデアはどんどんアウトプットして、「形にするトレーニング」を早めに始めるのが有利です。

32〜66歳の人へ

  • 「自分の得意分野」「自分ならではの視点」が固まりやすい時期です。
  • 特許や新規事業など、“形になるアウトプット”を一度本気で狙ってみるのに、もっとも適したフェーズ といえます。
  • 脳の効率は少しずつ落ちますが、
    • 抽象的な全体像をつかむ力
    • 経験に基づく判断力
      が強みになります。

66歳以降の人へ

  • 件数で若手と競う必要はありません。
  • むしろ、
    • 若い人のアイデアに「安全性」や「現実性」を加える
    • 異なる領域をつなぐ
    • 失敗しそうなポイントを事前に察知する
      といった “メタレベルの発明” が得意になりやすい時期です。Futurity+1

生成AI・ノーコードツールなどを活用すれば、
年齢による処理スピードの差をある程度補うこともできます。


6. まとめ

  • 脳の構造は、9歳・32歳・66歳・83歳 の4つの年齢で大きく転換し、
    5つの「脳の時代」があることが示されました。Nature+1
  • ネットワーク効率は、だいたい 30歳前後でピーク を迎え、その後は専門モジュールの強化や再編成が中心になります。Nature+1
  • 創造性や特許出願のピークは、おおむね 30代後半〜40代前半 に集中しますが、

年齢は「可能性が閉じるポイント」ではなく、
脳のネットワークの役割が変わる“区切り” にすぎません。

「今の自分の脳は、どんな時代にいるのか」
「その時代だからこそできるアイデアの出し方は何か」

そう考えてみると、
何歳であっても、まだまだ新しい発明・特許のチャンスは残っている──
そんな希望を与えてくれる研究だと思います。

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