はじめに:若さと脳のギャップ
「脳の老化は20歳から始まっている」と聞いたとき、多くの人が驚くかもしれません。
なぜなら、20歳といえばまだ若さの真っただ中。社会に出る前、大学生活を楽しんでいる時期であり、”老化”という言葉とは無縁に思えるからです。
しかし、脳科学者・澤口俊之さんは、2024年7月13日に福井市で開催された講演でこう語りました。
「前頭前野は20歳ごろから血流が減り、老化が始まります。だから、脳の老化予防は青年期から始めるべきなのです」
これは単なる脅しではなく、科学的根拠に基づいた警鐘です。そして、その予防策として“趣味”が極めて重要な役割を果たすことがわかってきました。
脳老化のカギは“血流”
脳は、全身の中で最も多くのエネルギーを消費する臓器です。体重の2%に過ぎないのに、全身の酸素の20%以上を使うとも言われています。
そのエネルギー供給源が「血流」です。血流が減ると、脳の各部位の働きが低下し、やがて「老化」や「認知症」のリスクが高まるのです。
中でも、前頭前野と呼ばれる脳の前部は、意欲、判断力、計画性、感情コントロール、さらには「人間らしさ」を司る極めて重要な場所です。
ここが老化することで、「何もやる気が出ない」「怒りっぽくなる」「集中力がなくなる」といった変化が生じます。

澤口さんによれば、前頭前野の血流は20歳前後からじわじわと減り始め、40代・50代にはその影響が目に見える形で現れてくるそうです。
認知症とMCI(軽度認知障害)
よく「年を取ると物忘れが増える」と言いますが、加齢による“自然な物忘れ”と、病的な“認知症”は異なります。
その中間に位置するのが MCI(Mild Cognitive Impairment)=軽度認知障害 です。
MCIは認知症の前段階であり、まだ回復が可能です。逆に言えば、ここで対処しないと、5年以内に半数以上が認知症へと移行すると言われています。
澤口さんは講演で、「認知症になってからでは手遅れ。MCIの段階で見つけ、生活習慣を変えることで進行を止めることができる」と強調しました。
「脳に良い趣味」とは?
脳の老化予防には、“血流を増やし、脳のネットワークを活性化する”ことが大切です。
そこで澤口さんが挙げたのが、「脳に良い趣味」です。
具体的には、以下のような活動です。
趣味 | 脳への効果 |
---|---|
読書 | 語彙力・想像力・論理力・集中力を総合的に活性化 |
楽器演奏 | 両手の協調運動・聴覚処理・記憶力・感情表現が複合的に働く |
ウォーキングやランニング | 有酸素運動によって脳全体の血流が改善され、認知機能向上 |
囲碁や将棋 | 記憶力・戦略思考・注意力の強化 |
絵を描く・手芸 | 手先の細かい動きと創造性の統合による脳全体の刺激 |
ポイントは、「目的を持って」「日常的に続ける」ことです。
たとえば、「毎日朝に30分歩いて、帰ってきたら好きな本を読む」というように、生活の中に習慣として組み込むと効果が高まります。
趣味は「脳トレ」に勝る
近年、脳を鍛えるゲームやアプリも増えていますが、本当の意味での“脳の成長”には、趣味の方がはるかに効果的だという研究もあります。
脳は“意味”のある活動をしたときに強く反応します。
単純な数合わせや計算よりも、「好きな小説の続きが気になる」「ピアノでうまく弾けた時に嬉しい」といった感情や達成感を伴う活動が、前頭前野や側頭葉をしっかりと刺激します。
【新しい視点】脳育成学と「自己効力感」
澤口俊之さんは「脳育成学」という分野を提唱しています。これは、**脳の老化を防ぐだけでなく、年齢に関係なく“脳を育て直す”**という考え方です。
この中で注目されているのが、「自己効力感(self-efficacy)」です。
自己効力感とは、「自分にはできる」という感覚のことで、これは脳の活動レベルを大きく左右します。趣味を通じて「やればできる」「楽しい」という体験を積み重ねることで、前頭前野の働きが活性化し、結果的に脳が若返るのです。
【特許案】脳老化予防のための“感情連動型趣味ナビゲーション装置”
発明名称:感情・目的連動型趣味習慣化支援システムおよびその方法
【背景技術】
従来の健康管理アプリや脳トレアプリは、定型的な反復作業やスコア表示に偏り、感情や興味を考慮していない。そのため、継続率が低く、脳の前頭前野への刺激が限定的である。
【課題】
個人の感情・関心・生活リズムに応じて、適切な“脳に良い趣味”を提案・継続支援できるシステムを提供する。
【発明の要旨】
・ユーザーの顔表情、声のトーン、脈拍、歩数などをAIがリアルタイム解析
・「ワクワク感」や「達成感」が強いタイミングで、適切な趣味活動(読書・楽器・外出等)を推薦
・習慣化のために、行動ログと感情履歴をもとにAIがパーソナライズされた週間プランを作成
・報酬設計(褒め言葉、記録閲覧、友人との共有機能)も含むことで、前頭前野の活性を促進
おわりに:脳は死ぬまで成長する
私たちの脳は、使い方しだいで70歳でも80歳でも成長します。
「年を取ったから」とあきらめる必要はありません。
むしろ、今からでも遅くないのです。
あなたの趣味が、あなたの脳を守り、育て、そして未来を変えていきます。
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