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脳損傷後の高次脳機能障害が生じるメカニズム(1)

脳梗塞・頭部外傷・脳出血などの脳損傷を発症すると、脳内では「神経回路の物理的破壊」とそれに続く「グリア細胞による環境変化」という2段階のプロセスが起こります。この過程が、注意障害や記憶障害などの「高次脳機能障害」の発現につながります。

脳損傷後のメカニズム:2段階のプロセス

目次

第1段階:神経回路網の物理的破壊 —— 「基盤の崩壊」

  • 原因:脳梗塞(虚血)・頭部外傷(物理的衝撃)・脳出血(血腫による圧迫)など。
  • 変化
    • 損傷部位の神経細胞が壊死または機能低下する。
    • 神経細胞同士の繋がり(シナプスネットワーク)が分断される。
    • 脳内の興奮(アクセル)と抑制(ブレーキ)の神経バランスが崩壊する。
      • 例:抑制性ニューロンが特に脆弱で、その機能が弱まると、周囲の神経細胞が制御不能となり、過剰に興奮しやすくなる。
  • 核心ポイント:損傷は脳の一部でも、それは精密な回路網の一部が断線することを意味し、ネットワーク全体の機能に大きな影響を及ぼす

第2段階:グリア細胞の活性化とその副作用 —— 「異常な修復と環境の悪化」

  • 主役アストロサイト(環境維持役)、ミクログリア(免疫監視役)
  • 何が起こるか?
    • これらグリア細胞は損傷を検知し、活性化して修復作業を始める(例:死んだ細胞の除去、炎症反応)。
    • しかし、この「修復作業」が過剰になったり、調節を誤ると、以下のような有害な副作用を引き起こす:
      1. グルタミン酸の回収障害:興奮性神経伝達物質がシナプス間隙に滞留し、神経興奮が持続・増幅される。
      2. 炎症性サイトカインの放出:慢性的な炎症状態が続き、健常な神経細胞にも悪影響を与える(脳内の“オーバーヒート”状態)。
      3. グリオーシス(膠症):アストロサイトが作る瘢痕(はんこん)が物理的な障壁となり、神経再生を阻害する。時に異常な神経回路の再編を促すこともある。
  • 最終結果:脳内は神経が過剰興奮しやすく、情報処理の効率が低下した「質の悪い環境」 に変わってしまう。これが、てんかん発作や高次脳機能障害の土台となる。

たとえ話
事故で壊れた道路(神経回路)を急いで修理するが、でこぼこな仮設の迂回路(瘢痕)しかできず、現場には規制の看板(炎症信号)が乱立している。そのため、交通(神経信号)は渋滞し、迂回路で誤った方向に行く車(異常な信号)も出て、全体の流れがスムーズに行かない状態。


【具体例】脳梗塞発症後・リハビリ期の「見えにくい」変化

患者Aさん(60歳、左脳軽度梗塞)のケース
外見上は会話も可能で麻痺も軽度なため「順調な回復」に見えるが、本人は「何となくおかしい」と違和感を覚える。

  • 第1段階の影響
    • 易疲労感、頭重感:一部の神経細胞が失われ、脳全体の情報処理容量が低下したため。いわば「CPUの性能低下」。
  • 第2段階の影響(高次脳機能障害の萌芽)
    • 注意障害:フィルター機能の低下。→ リハビリ中の指示聞き漏らし、複数人の会話についていけない。
    • 遂行機能障害:計画・実行機能の低下。→ 朝の支度の順序が乱れる、新しい訓練の手順が組めない。
    • 記憶障害:処理速度の低下。→ 直近の記憶の保持・想起が困難。
    • 情緒不安定:感情制御の困難さ。→ 突然のイライラや悲しみ。これは、理性(前頭前野)による感情(大脳辺縁系)の制御が、崩れた回路と悪い環境によって上手くいかなくなるため。

この段階の重要性と対策:リハビリの絶好の機会
この時期は、脳が可塑性(回復力)を持つと同時に、悪い方向にも固定され得る極めて重要な時間枠です。

  • 周囲の認識:「身体機能の回復」だけでなく、「見えない脳内環境の悪化」というリスクを理解し、患者の訴えを真摯に受け止めることが第一歩です。
  • 治療・アプローチ
    1. 環境調整:脳への負荷を減らす(静かな環境、簡潔な指示)。
    2. 薬物療法:脳の炎症を抑える薬や神経栄養を補助する薬が検討される場合がある。
    3. 認知リハビリテーション:衰えた機能(注意、記憶)に特化した訓練を早期に開始し、良い方向への回路再編を促す

総括
脳損傷後、目立った症状がなくとも、脳内では高次脳機能障害の「」がまかれ、育ち始めています。この「見えない段階」で適切な介入をすることこそが、その後の回復の質を決定する最も重要な投資の一つです。

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