2025年の開幕を目前に控えた大阪・関西万博――4月から始まった「テストラン(リハーサル)」では、期待とは裏腹に「案内板が少ない」「期待外れ」「スマホがないと何もできない」といった、来場者の不満の声が相次ぎました。
未来技術の祭典として華々しく掲げられていた「超スマート会場」のはずが、実際には“超不親切”な設計だったのでは?という指摘もあります。特にスマホが苦手な高齢者や、視覚・発達障害をもつ方々にとっては、現地の案内が不十分であることが「参加できない未来」の象徴となってしまっているのです。
一方で、この万博において光る試みのひとつがあります。それが、特許庁の出展です。
知的財産は「大企業のもの」じゃない
特許庁は、2025年10月2日からの1週間、「SDGs+Beyond いのち輝く未来社会」というテーマで出展を行います。そのメッセージの中には、私たち一人ひとりが持つ「アイデア」や「想い」を社会につなげる力として、**知的財産(知財)**が紹介されています。
知財というと、多くの人は「大企業」「発明家」「弁理士」といった専門家の世界の話に聞こえるかもしれません。しかし実際には、**小さな発明や工夫、地域の伝統や経験を守り、社会に届ける力こそが“知財の本質”**なのです。
たとえば、車いすユーザーが自らの不便をもとに開発した「バリアフリー用の簡易スロープ」、視覚障害者のために開発された「音声で誘導する歩行支援アプリ」なども、れっきとした知財の成果です。
障がい者の視点から見た「未来社会」のあり方
元万博協会整備局長で、大屋根「リング」の設計に関わった阿部正和氏は、障がい者団体と「ひざ詰めで話し合った」と語っています。設計段階で配慮されたことは評価に値しますが、テストランでの現地状況を見る限り、配慮はまだ十分とは言えません。
バリアフリーとは、単にスロープやエレベーターをつけるだけではありません。「情報のバリア」を取り除くこと、つまり、案内表示の工夫や音声ナビ、誰でも直感的に使えるUI設計も含めて初めて“共生”が実現します。
障がい者が「行っても困らない」ではなく、「行きたくなる」未来社会を描けるか――その試金石が、まさにこの万博です。
知財×共生社会=持続可能な未来
ここで再び、「知財のチカラ」に話を戻します。
特許庁の展示では、障がい者の生活を支える発明や、社会的な課題を解決するための知的財産も紹介される予定です。これは、「福祉」と「技術」を対立ではなく融合させる、新しい視点です。
障がいがある方自身が発明者となり、自らの体験を社会に還元する。そのために知財という制度がしっかり支える。これこそが、持続可能で真に多様性ある未来社会の土台となるはずです。
そして、それは“未来の話”ではなく、すでに多くの小さな特許や意匠・商標として、日本全国で始まっていることでもあります。
まとめ:「誰一人取り残さない未来」は特許から生まれる
大阪万博は、混迷と批判に包まれています。しかし、その中で忘れてはならないのは、真の未来社会とは、テクノロジーが華やかに踊る世界ではなく、「誰もが参加できる社会」であるということです。
スマホを持たない人、目が見えない人、歩くのが難しい人、言葉がうまく出てこない人――そうした人々が安心して「来てよかった」と思える万博でなければ、本当の意味での成功とは言えないでしょう。
そして、その実現に必要なのが、「知財の力」。知財は、一人ひとりの挑戦や不便さから生まれる発明を社会に届ける“橋”です。
未来を変えるのは、巨大な建物やドローンではありません。小さなアイデアを守り、育て、届ける制度と、それを支える社会の意志です。
大阪万博に行く予定がある方は、ぜひ特許庁の展示ブースに立ち寄ってみてください。そして、こう問いかけてみてください。
「自分のアイデアや経験も、世界を少し良くする力になるのでは?」
それこそが、未来を一緒につくる第一歩かもしれません。
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