~見た目は元気。でも、脳の中がうまく働かなくなる障害~
はじめに
みなさんは、「脳のけが」って聞いたことがありますか?
交通事故で頭をぶつけたり、病気で脳がダメージを受けたりすると、見た目は元気でも、心の中や考える力がうまくいかなくなることがあります。
それが「高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)」です。
名前はむずかしいですが、実はとても大事なことなんです。
この記事では、「高次脳機能障害」について、できるだけわかりやすく説明します。
「なにそれ?」「ふつうの障害とどうちがうの?」と思った人も、最後まで読めばしっかり理解できるようになります。
「高次(こうじ)」ってなに?
まず、「高次」という言葉は、ふだんの生活ではあまり使いませんよね。
ここでは、「高次」と「低次」をわかりやすく説明します。
- 「低次(ていじ)」のはたらき:からだが勝手にやってくれること
- くしゃみをする(ハクション!)
- 心臓がドクドク動く
- 呼吸する(寝ているときも息してるよね) - 「高次(こうじ)」のはたらき:自分の意志(いし)でやること
- 人と会話する
- 勉強する
- 名前を覚える
- 予定を考える
- 空気を読む
つまり、「高次」は、**人間らしく生きるための“脳のすごい力”**です。
これがあるから、私たちは社会で生活できているんですね。
高次脳機能障害とは?
高次脳機能障害とは、脳の中の「考える・覚える・感じる」部分が、病気やケガなどでうまく働かなくなる障害のことです。
原因になる病気やけが
- 脳梗塞(のうこうそく):脳の血管がつまって、脳に酸素が届かなくなる病気
- 脳出血(のうしゅっけつ):脳の中で血管が切れて出血する病気
- 交通事故などの頭のケガ
- 脳腫瘍(のうしゅよう):脳の中にできる腫れもの
- 心停止(しんていし):心臓が止まって、脳に酸素が届かなくなる状態
こうしたことが起きると、脳の中の大切な「高次」部分が傷ついてしまうのです。
どんな症状があるの?
高次脳機能障害になると、自分では気づきにくいけど、まわりの人にとっては困る変化が出てきます。主な症状を紹介します。
① 記憶の問題(すぐ忘れてしまう)
- さっき言われたことを忘れる
- 同じ質問を何回もする
- 約束の時間や場所を間違える
② 注意の問題(集中できない)
- 勉強していても、すぐに他のことが気になる
- ぼーっとしてしまう
- 複数のことを同時にできない(例:料理しながら会話)
③ 言葉の問題(うまく話せない・聞きとれない)
- 自分の言いたいことが言葉にならない
- 相手の話が理解できない
- 言い間違いが多くなる
④ 感情のコントロールが難しくなる
- すぐ怒る、泣く
- 周りに当たってしまう
- 自分で感情をコントロールできない
⑤ 行動の問題(段取りができない)
- 今日やることを順番に考えられない
- 何をすればいいかわからなくなる
- 洋服を着るのに手順を間違える など
見た目では分からない障害
この障害の一番やっかいなところは、「外から見ると分かりにくい」ことです。
たとえば、足が動かないとか、目が見えないという障害は、見ればすぐにわかりますよね。
でも、高次脳機能障害は、見た目は元気そうなのに、
- 言葉が出てこない
- 約束を忘れる
- すぐ怒る
といったことが起こるため、「性格が悪くなった?」と誤解されやすいのです。
どうすればよくなるの?
高次脳機能障害には、リハビリがとても大切です。
たとえば:
- 言葉のリハビリ:ゆっくり話す練習や、簡単な会話のトレーニング
- 記憶のリハビリ:メモをとる習慣をつける、カレンダーを活用する
- 感情のリハビリ:気持ちを整理する方法を学ぶ
それと同じくらい大事なのが、まわりの人の理解とサポートです。
「なにやってるの!」と怒るのではなく、
「脳のケガで忘れやすくなっているんだね」と知っていれば、イライラせずに助けられます。
実際にあったお話(例)
ある50代の男性は、脳出血で倒れて入院し、命は助かりました。
でも、退院したあと、
- すぐに約束を忘れる
- 家族の名前が言えない
- お金の管理ができなくなった
という状態になり、会社には戻れませんでした。
でも、家族の支えとリハビリで、少しずつ回復していき、
今では近くの施設でパソコンの仕事を週に数回しています。
実は、私もそうでした
私自身も脳梗塞を発症し、その結果、高次脳機能障害・失語症・てんかんを抱えることになりました。
特に、私の失語症は「ウェルニッケ型失語」というタイプで、口頭でのコミュニケーションがとても難しい状態です。話を聞いても、意味がすぐに理解できなかったり、自分の言いたいことがうまく言葉にできなかったりします。
その様子については、こちらのYouTube動画で紹介しています。よろしければご覧ください。
最後に
高次脳機能障害は、「脳の中のナビゲーション」が壊れたようなものです。
エンジン(体)は動いているのに、行き先(行動や考え)がわからない――
だから、周囲のやさしさや、時間をかけたリハビリがとても大切です。
そして、これを読んだあなたが「もしかしてこの人、そうかも?」と思えたら、
その人にとってとても大きな希望になります。
キーワードまとめ
- 高次脳機能:考える、話す、覚えるなどの力
- 障害の原因:脳梗塞、脳出血、事故など
- 主な症状:忘れっぽい、集中できない、感情のコントロールが難しい
- 見た目では分からない:誤解されやすい障害
- リハビリと理解:ゆっくり回復するには、家族や周囲の支えが必要
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