はじめに
私は**失語症(ウェルニッケ型)があり、口頭でのコミュニケーションが苦手です。さらにAPD(聴覚情報処理障害)**の特徴にも当てはまると感じています。この記事は、同じような「聞こえるのに、ことばが入ってこない」困りごとを持つ方へ向けて、やさしい言葉でまとめました。
目次
図1:LiD と APD の関係
(図)LiD の大きな円の中に、APD の円が入っています。
- LiD(Listening Difficulties:聞き取り困難)=困りごとの総称
- APD(Auditory Processing Disorder:聴覚情報処理障害)=LiDの一部(中枢聴覚の処理に弱さがあるケース)
一言で
LiD=症状の傘ことば(原因はさまざま) APD=その中で脳の聴覚処理に測定可能な弱さがあるもの

まず結論(超シンプル版)
- 耳の病気や聴力は正常でも、「うるさい場所で話が拾えない」「長い指示が抜ける」ことは起こります。これがLiD。
- その中で、検査で中枢聴覚の処理の弱さが確認できたらAPDです。
- 対策は、環境を静かにする+補助機器+個別トレーニング+配慮が基本。
LiD(聞き取り困難)とは?
**「音は聞こえるのに、ことばとして入ってこない」**状態の総称です。
- 場面:教室・会議・飲食店など雑音下で特に苦しい
- 指示:口頭の長い指示が途中で抜ける/覚えにくい
- 速さ:早口・専門用語で理解が追いつかない
- 影響:注意・ワーキングメモリ・言語処理・疲労・不安、軽い難聴の見落とし など
- ポイント:純音聴力検査が正常でも起こります
APD(聴覚情報処理障害)とは?
LiDの中でも、耳より中枢(脳)の聴覚処理に弱さがあるタイプです。発達性、脳卒中・頭部外傷後などの後天性、他の要因に伴う二次性などがあります。
よくある特徴(非言語音を含む)
- 雑音下で極端に聞き取りづらい(話者の声を背景音から分けにくい)
- 左右同時の音が苦手(両耳分離聴の弱さ)
- 似た音の聞き分け/音の順序が苦手(/ta/と/da/、早いアナウンスなど)
- 方向感(音源定位)がわかりにくい/話者の位置を目で探しがち
- 抑揚・リズム・韻・言外のニュアンスの理解が弱い(皮肉・冗談など)
- 検査で低下:二耳分離聴、ギャップ検出、周波数・持続パターン、LiSN-S 等
※非言語音の処理(定位・抑揚・リズムなど)は、中枢聴覚処理に含まれるためAPDの評価対象です。
関連要因(LiD全体に影響:記憶と注意)
- 口頭での長い説明や講義の内容を保持しにくい
- 強い集中を要し、すぐに疲れる(聴覚処理負荷でワーキングメモリと持続的注意が消耗)
※記憶と注意はAPDの診断中核ではありません。ただし困り感を大きくするため、聴覚処理とは切り分けて評価・支援します。
私の体験メモ(ウェルニッケ失語 × APD らしさ)
- 静かな個室だと理解しやすいが、ザワザワすると急に難しくなる
- 一度で長い説明を受けると、最初の方が消える
- 早口や専門語だと、意味が追いつかない
- 相手の口の動きやメモがあると急に楽になる
ヒント:「視覚の助け」(文字・図・指差し)を組み合わせるとグッと楽。
調べ方(受診の流れ)
- 耳鼻科での基本聴力検査(耳の病気・難聴の除外)
- 中枢聴覚の行動検査(二耳分離聴、ギャップ、周波数・持続パターン、LiSN-S など)+質問票(ECLiPS など)
- 関連領域の評価(言語理解、注意、ワーキングメモリ など)
- 総合判断:ガイドライン(AAA/ASHA、BSAなど)に沿って介入計画を決める
できる対策(今日から/制度的配慮)
今日から
- 席・環境:静かな席、残響・騒音を減らす
- 話し方:ゆっくり・区切って・要点→詳細/キーワードを書く
- 視覚支援:スライド・板書・議事メモ・ジェスチャー
- 復唱確認:大事な情報は言い返す
道具・トレーニング
- リモートマイク/FM、録音許可
- 聴覚トレーニング(雑音下了解・空間手がかり・左右耳バランス 等)
学校・職場の配慮(コピペOK)
- 静かな席/顔が見える配置
- 要点は文字(配布資料・議事メモ・チャット)
- ゆっくり・区切って伝える/復唱確認
- リモートマイク使用可/録音可/時間延長など柔軟に
自己チェックの目安
- 静かな部屋なら大丈夫、雑音下だけ極端に辛い → LiD 単独の可能性
- 静かな部屋でも速い話・似た音・方向感でつまずく → APDの可能性が高い
- リモートマイクで一気に楽になる → APDでよく見られる反応
まとめ
- LiDは「聞き取りにくさ」の広い総称。
- APDはその一部で、**中枢聴覚(言語・非言語音を含む)**の処理に弱さがあるタイプ。
- 記憶と注意はAPDの中核ではないが、LiD全体に強く影響するため別枠で評価・支援する。
- 私(ウェルニッケ失語+APD疑い)には、視覚の助け・静かな環境・リモートマイク・メモが大きな支えです。
参考(読み物・ガイドラインの例)
- ASHA(アメリカ言語聴覚士協会)
- AAA(American Academy of Audiology)
- BSA(British Society of Audiology)
- 医学系レビュー論文(PubMed Central など)
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