かつては世界を恐怖に陥れた感染症の数々。ポリオ、麻疹、ジフテリア、百日咳…。これらの病気がまたアメリカで流行する可能性がある──。こんな警告が、トランプ大統領によって解任されたばかりのアメリカ疾病対策センター(CDC)の前所長から発せられました。
ポリオや百日咳「再び流行する可能性」 アメリカ疾病対策センター前所長が警告
このニュースは、私たちに「ワクチン接種をどう考えるべきか」 という根本的な問いを投げかけています。結論から言えば、科学的見地からは、ワクチンは「使う方がよい」、いや「使うべき」 というのが世界の共通認識です。
⒈ なぜワクチンは「使うべき」なのか? ~3つの科学的理由~
❶ 自分自身を守る「個人防護」
ワクチンは、体に病原体の特徴を安全な形で教え、抗体という武器を事前に準備させます。これにより、実際に病原体が侵入してきたとき、迅速に反撃し、発症自体を防ぐ、あるたとえ発症しても重症化を防ぐことができます。麻疹やポリオは重い後遺症や死につながることもあるため、この効果は極めて重要です。
❷ 社会全体を守る「集団免疫」
これはワクチンが持つ、最も重要な社会的意義です。人口の大多数(麻疹なら95%以上)が接種していると、感染症の流行そのものを抑え込むことができます。
この「集団免疫」の力は、
- 年齢や持病のためにワクチンを打てない人(乳幼児、がん患者など)
- ワクチンを打っても免疫がつきにくい人
をも感染から守る「盾」になります。私たちが接種するのは、自分のためだけでなく、そんな周りの大切な人々のためでもあるのです。
❸ 圧倒的な「実績とエビデンス」
人類はワクチンの力で天然痘を根絶しました。記事にあるポリオや麻疹なども、ワクチン導入以前は恐れられていましたが、その普及により患者数は激減し、日常的に見ることは稀になりました。この成功は、疑いようのない歴史的・科学的な事実です。
⒉ 狂犬病ワクチンの特殊性~発症すればほぼ100%致命率~
特に注意が必要なのが狂犬病のワクチンです。その特徴は他のワクチンとは大きく異なります。
- 「治療」としてのワクチン:麻疹やポリオのワクチンが「予防」を目的とするのに対し、狂犬病ワクチンは、感染動物(アライグマ、コウモリ、野犬など)に咬まれた「後」 に、発症を防ぐために接種します(暴露後接種)。
- ほぼ100%の致命率:一旦発症してしまうと、有効な治療法はほぼなく、ほぼ100%死に至るという、極めて危険な病気です。
- 唯一の救命手段:咬まれてからすぐにワクチン接種を開始することが、唯一の救命手段です。このワクチンの存在が、多くの命を確実に救っています。
「予防」か「暴露後治療」かの違いはあれ、ワクチンが唯一の生命線であることに変わりはありません。
⒊ ニュースの核心:科学と信念の衝突
今回のモナレズ前所長の警告は、単なる意見ではなく、公衆衛生の専門家として当然の科学的懸念です。
- モナレズ前所長:科学的事実に基づき、「ワクチン接種率の低下は、集団免疫の崩壊と過去の感染症の再流行を招く」と警鐘を鳴らしています。
- 対するケネディ長官:報道にあるように「ワクチン懐疑論」の立場です。しかし、その主張の根幹(例えば「ワクチンと自閉症の関連性」など)は、これまでに数多くの大規模研究で完全に否定されています。
この解任劇は、「科学とエビデンス」 よりも 「政治的なイデオロギーや個人の信念」 が優先された一例と捉えることができるでしょう。
⒋ まとめ:何を信じ、どう行動すべきか
私たちが頼るべき情報源は、根拠のないネットの噂や政治的主張ではなく、世界保健機関(WHO)や各国の公的機関(日本の厚生労働省など) が発信する、確固たるエビデンスに基づいた情報です。
ワクチン接種は個人の選択ではありますが、その選択は社会の構成員としての責任も伴います。自分と周りの人を守るため、そして公衆衛生という社会的な資産を維持するために、ワクチンは「使うべき」重要なツールです。
専門家の警告は、決して他人事ではありません。正しい知識に基づいた判断をすることが、未来の健康を守ることにつながります。
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